映画『あずみ』の物語の解剖分析
今回は、結構前になりますが、2003年に公開された映画『あずみ』のストーリー分析をご紹介しますね。実はボク映画館で観ました。ちなみにこの作品を手掛けた北村龍平監督(現カルフォルニア在住)はアクション映画監督で名高いです。もし、記事にご興味がありましたら、しばらくボクの趣味にお付き合いいただけたら嬉しいです。
主演はあの『半沢直樹』の妻役を務めた上戸彩。その他、ラスボス(悪役)のオダギリジョーや竹中直人など、結構、豪華キャスト陣なので見ごたえはありますよ。
で。毎回、同じことを申しますが、この記事は超ネタバレになります。ちょうどYouTubeで全時間アップされてましたので、もし、まだ観ておられない方は是非、一度視聴してから本記事をご覧になってくださいね。(広告がうざいですけど)
スリーベース
①誰が?:あずみ(主人公)刺客
②なぜ?:戦を起こす反乱を防ぐため
③どのように?:加藤清正勢を倒して使命を果たす
①誰?
凄腕の美少女刺客。幼いころに小幡月斎により拾われ刺客として鍛え上げられて、常人を遥かに超える武術の腕を持つ達人。周りが男の子ばかりの環境だったので一人称は「俺」。
②なぜ?
泰平の世を築くために、小幡月斎が刺客を育て、徳川幕府を邪魔立てする反乱分子をひとり残らず消して戦乱の世を終わらせるため。
③どのように
敵は、刺客を打倒するための強敵が送りこまれ仲間を次々に失う。また最終的に小幡月斎が人質になり、あずみが救出した後、加藤清正を討ち取る。
結果・結末
恩師である小幡月斎を救えなかったことに関してはバッド・エンドですが、加藤清正を倒し、使命を果たせたこと自体は、まぁまぁのハッピーエンドとなるでしょう。残りのターゲット(真田昌幸)を倒すため旅立つシーンで完結します。続編は『あずみ2』。仲間がどんどん死んでいき、最終的には、あずみ一人ぼっちになってしまい、ちょっと悲しい話なのでバッド・エンドな作品であるとも解釈できます。
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ラスボス
ラスボスは加藤清正・最上美女丸(もがみ・びじょまる)と2人存在します。
加藤清正は、徳川家康の政敵であり、最上美女丸は、あずみと一対一で戦う相手、最強の殺し屋(雇われ者)です。
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どんでん返し
あっと驚くようなどんでん返しは特にないです。というのも、この作品はダイナミックな殺陣をメインで構成されてます。ストーリー的に面白いか否かは問いませんが、どんでん返しがなくても、ラストの200人斬りなど、映像的には十分見応えのあるエンタメ作品に仕上がっています。強いて言えば、加藤清正が船で逃げて生き延びましたが、あずみが海を泳いで船に乗り込んでバッサリ斬られるシーンがどんでん返しとも言えます。しかし、伏線がないので、あまりぱっとしませんが、読者に安堵感を与えるには妥当かと思います。
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テーマ(刺客の道ついて)
女の子が剣で悪い奴らと戦う話かと思うのですが、世を内乱を起こそうとする中心人物をやっつける「刺客」の話なんですよ。
刺客というのは、いわゆるプロの「暗殺者」です。暗殺者は人の命を奪いますが、逆に命を狙われやすいんですよね。だから普段は普通の女の子のフリをしなければなりませんし、武術は使命を果たす以外のことで使ってはいけないし、そんな二重の生活が強いられるわけです。
それと「刺客」とは殺すべき相手を選べず、上の命令とあらば、人望が熱い者でも女、子供でも殺します。(掟というリミットがあります)今で言う、極秘任務を担う政府関係者みたいな。主人公は、とても美人で性格もいいですから、人から好かれ愛されます。めだっちゃいけないのに、凡人にはない重い役割を持っているのです。ですから、主人公は、恋をしたり、家族をもつ夢は追えないし、使命を果たすことだけに生きがいを見出していきます。これが主人公に課せられたテーマ・コンセプトなんじゃないかなと思います。
舞台設定(背景)
関ヶ原の戦いなど、幾多の戦場を生き抜いた剣の達人「小幡月斎」という老人が、戦で親を亡くした孤児たちを集め、精鋭の刺客として育てあげる。
なぜ?(理由と目的)
江戸幕府初期に実在した南光坊天海という徳川家康の側近が、小幡月斎(架空の人物)に使命を与える。戦のない泰平の世を築くために、戦や内乱を起こそうとしている輩を、刺客をつかってひとり残らず殲滅させよ!というもの。WHAT(何を)は「刺客」になります。
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オープニング
あずみの母親が道端で息絶えるシーンから始まります。幼きあずみは、動かなくなった母の姿を見て、悲しみに暮れています。その時、何人かの孤児を引き連れた小幡月斎が、あずみに近づき声をかけます。しかし、母の屍から離れようとはせず、あきらめてその場を立ち去ろうとしますが、一人の男の子「ナチ」が、あずみに手を差し出します。「共に行こう」と無言で誘う姿。あずみは、その行為を受け止め、小幡月斎らに同行することに。
そして、長い年月が経ち、彼らは立派な剣士として成長します。山奥での戦闘シーンは、下界へ降りて使命を果たすために訓練(修行)をしています。
ここまで、だいたい10分以内で説明されています。わかりやすく、テンポもよいと思います。
オープニングの作り方といえば、
①キャラクターの動機がわかるように描く
②キャラクターが葛藤・対立している情景をわかるように描く
③キャラクターの動機と行動を一致させる
④テンポよく展開させる
でしたよね。
関連記事:オープニングの作り方
そして、次の展開で強烈な葛藤と対立シーンに見舞われます。
ある晩、小幡月斎は、「明日、山を降りるぞ」と一言。彼らは「ついに俺たちが使命を果たす時がきたんだ!」と、大はしゃぎします。
翌朝、広場に集められ、10人中、仲の良い者同士、2人1組、5組にさせます。
小幡月斎が「友を殺さぬ弱気心は、刺客という先の使命を果たすことはできん」と言って「今、組んだ者同士、殺し合え」と最初の使命を突きつけられるのです。
これが、刺客の道の始まりになります。
さすがにこれには皆、動揺が隠せません。誰も動けない中、一人クールなキャラである「ウキワ」が最初に仲間を斬り倒します。すると他の仲間も連なり、殺し合いをはじめます。
あずみも、恋人のナチと殺し合わなければなりません。あずみは、同じ境遇で育った兄弟のような仲間を斬り殺すことに激しく葛藤します。結果的にナチを殺し、10人が5人の精鋭となり、刺客の道という痛烈で過酷な情景が描かれています。ここまでが、セットアップパートです。彼ら刺客は、無事に使命を果たせるのか?といったセントラルクエスチョンやストーリーフックも効いています。
関連記事:セットアップパートの作り方(その①)
第二幕(セカンドパート)
天海から、旧豊臣勢である浅野長政、加藤清正、真田昌幸を斬れとの使命が下ります。最初は、浅野長政を暗殺。月斎(あずみ)側が優勢です。ところが敵の加藤清正の側近、井上官兵衛と飛猿が動き出します。いわば、異変パートになります。ここからは、敵と味方の形勢の話になります。忍者の毒矢で傷を受けたアマギが命を落としたり、徐々に敵側の方が優勢に傾いていきます。
関連記事:異変パート
ファイナルステージ
蒲生(がもう)という、ならず者の地で小幡月斎を待ち伏せし捕らえられてしまいます。
あずみは、小幡月斎を救いに蒲生へ向かいます。
関連記事:ファイナルステージで表現すること
クライマックス(見どころシーン)
小幡月斎を人質に、あずみ一人をおびき寄せようとする敵の作戦。数百人の、ならず者を呼び集め、これが200人斬りの見どころシーンであり、特に、あずみと最上美女丸との決戦は、最高の見せ場となります。
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個人的に面白いと思ったシーン
中盤あたりで、毒矢によって寝床に倒れるアマギを、あずみがかばうシーンです。「アマギをここへ置いていけない」とあずみが拒むと、月斎は人情を捨てさせ、使命を優先させるためにアマギをその場で斬り殺そうとします。すると、あずみが思わず月斎に刀を向けてしまうんですよ。それを見たウキワがあずみに剣を向け、あずみに剣を向けたウキワに、ヒュウガが剣を向けます。いわゆる仲間割れ状態です。
やっぱり、刺客もの同士仲良しこよしではなく、疑問や反発を覚えたあずみが反旗を翻すという「感情」と「変化」に注目させられました。そう「感情」はストーリーを牽引するのです。
キャラクターは常に変化するというボクの理論から、ストーリーの面白さが魅せれると思います。
関連記事:キャラクターに変化を与える
もう一つは、なんの関係のない善良な人たちまでも、簡単に殺してしまう雑魚キャラ(悪役)も際立っていました。悪役が邪悪なほど、主人公たちが引き立つというメカニズムは明らかで、あなたの作品にも活かせるはずです。
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それと余談ですが、サウンドトラックや、テーマ曲も良かったです。(映画は音楽があるからメディアとして強いですね)
↑ これは、映画『あずみ』のメイキング映像(41分)です。おまけw。主演を務めた若かりし上戸彩のインタビューもあどけなさ目白押しです。(はじめの撮影の時、刀がおでこに当たって怪我を負ったとか。役者も体張って頑張っているんですね)
何よりもエキストラ含む制作陣がどのような想いで作品を創作(演出)しているのか作り手の情熱が感じられると思いますよ。
きっとよい刺激になると思うので余裕があれば、ぜひ視聴してみてくださいね。撮影現場で、脚本にはない思いついたことをアドリブで撮ったりと、脚本家はもちろん小説や漫画の創作者であってもボクは観ておくべき内容かと思ってます。あなたの作品にも魂をこめていただけたら幸いです。
★ストーリー分析一覧
少林サッカー
ドラゴンボール(フリーザ編)
半沢直樹2(1~4話)
電車男(TVドラマ)
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