『半沢直樹2』1~4の物語の解剖分析
本日は、日曜ドラマ劇場『半沢直樹2』についてです。
ちなみにボクは、大河ドラマ以外、あんまり見ない方なんですけど、このドラマだけは毎週欠かさず見たいと思える作品です。
2013年に半沢直樹パート1〝やられたらやり返す倍返しだ〟のキャッチコピーが大ヒットし社会ブームを巻き起こしました。
参考記事:やられたらやり返す、倍返しだ! 国民的大ヒットドラマ「半沢直樹」コミカライズ
そして、今回続編の『半沢直樹2』が久しく放映され、今回も度肝をぬく視聴率を叩き出しています。
もし、観ていないなら、パート1をDVDレンタルで視聴をおすすめします。
善悪のコントラストが強く、ラストは正義が悪を華麗にぶった斬る水戸黄門パターン構造で描かれています。ストーリーの展開の型は、痛快なリベンジパターンですね。
今回、この物語が何故、これほどまでに視聴者を魅了し人気を博し続けているのか?ボクなりに解説してみます。
そして、あなたがこれから描くストーリー作りにヒントとなるよう、少しでも役立てていただけたらと思っています。
さて。歌舞伎役者とか顔芸とか裏声とか、金融業界の細やかなツッコミは抜きにして、純粋にストーリー作りについてお話していきますね。
ストーリー作りの基本はプロットを作ることであり、プロットの前に①誰?、②何故?、③どのように?の要約文を作ることからでした。
では『半沢直樹2』の1~4話を要約文に当てはめてみます。
〝半沢直樹が、不正融資を阻止して、顧客スパイラルを救った〟です。
これが創作する前の3つの決め事で、物語の軸となるものですし、作り手としての構想があったはずです。
つまり、結末を含める要約文が決まっていればプロットは描けたのも同然です。
『半沢直樹2』の1部で、スパイラル社長(瀬名社長)が、物語の伏線となり、第二部にも登場して活躍しそうです。
なので、復習を兼ねて『半沢直樹1』(ネタバレ注意)の方から、要約文を一つずつ解説していきます。
①誰?
半沢直樹という銀行員です。
誰(主人公)の決め方は、自分の分身だということをご紹介したかと思います。
半沢が中学の頃、ネジ作り屋の経営者だった父親が銀行員に殺されたことへの深い恨みや無念を晴らすために、自ら銀行に就職し、不正がはびこる組織の闇を暴く男として設定されています。
〝銀行は晴れの日に傘を貸して、雨の日に取り上げる〟〝銀行は汚い金貸し〟
これは、パナソニックの初代社長松下幸之助の名言から引用されたもので、経営体験と深い思想哲学から、この作品の着想を得ていると思います。
主人公の半沢直樹は、その醜悪がはびこる銀行の闇の中枢部に昇進(侵入)し、組織の腐敗を一掃し糾弾させていきました。
そこに行き着くまでの壮絶なバトルが繰り広げられますが、このアイデア自体、強烈な熱意というか、原作者である池井戸潤さんも元銀行員で、直で垣間見てきたかのような社会悪に鋭くメスを入れています。
おそらく、これこそが主人公のキャラパワーの源であり、何よりも説得力とリアリティーがあります。
関連記事:強い主人公の作り方
②何故?
物語を描く際に、作家自身が何故その物語を描くのか?ということにつながる項目です。
〝部下の手柄は上司のもの、上司の失敗は部下の責任〟
・・・という作中の台詞どおり、部下のことなんてどうでもよく、自分の出世だけを最優先させる卑怯で薄汚い人たち(組織)に対する激しい義憤かと思われます。
原作者の池井戸潤さんがこの物語を描く理由は、不正を暴露して、悪をギャフンを言わせることかとボクは思っています。
関連記事:悪という効果的な設定
読者に対して、〝こんな世の中で許されるはずがない〟〝あなたならどうする?〟というメッセージ性や、熱く深い問いかけがこめられてます。
これこそ、作者のパンチの効いた執筆動機であり、メタファーだと思います。
つまり、物語の要約文における、②何故の答えは、
つまり、目的と理由②なぜ?は、銀行員に殺された父の仇討ちだと言えます。
②何故?は、主人公が物語に登場する存在理由ですから、主人公が戦う理由と動機は、過去・背景(回想)があり、それが舞台設定なのです。
大切なものを奪われる何かしらの舞台設定であれば、従兄弟でも弟でも誰でもいいんですよ。
とりわけ、リベンジパターンでは主人公の動機が積年の怨みを晴らさないといけないので、動機のコンストラストは、強い方がいいわけです。
そして、悪をギャフンと言わせる対象を、大和田常務(ラスボス)いうキャラに見立て、いつかは、こいつを打倒するという目的(ゴール)が設定されているのです。
主人公の動機(作者の動機)というのは、社会悪に対する嘆きであり、手出しも何もすることができなかった自分に対する無力さと悲しさと激しい怒りの感情表現だと思います。
そのイメージを具現化したエピソードが、父親が首をつって自殺したということだと思います。
半沢の父が土砂降りの中で、大和田(ラスボス)に土下座をして頼みこむのを目の当たりにしました。
自分の出世のためだけにだまし討した、大和田を倍返しするために、半沢が銀行員になります。
その事情と背景がわかりやすく設定されています。
キャラの中でも特に大和田常務という悪役の完成度は高く、主人公を際立たせています。
悪や悪の世界というのは、とてもインパクトを残しやすいものでしたよね。
物語の種は、作者のこのような葛藤と対立から生まれるものだと思います。
主人公の明確な理由と目的を、瞬時にわかりやすく読者に伝えているシナリオがとても優れてます。
③どのように
最後、③どのようにですが、①誰と②何故が、固まっていればもう簡単です。
主人公が、
どのように立ち向かうか?
どのように選択するのか?
どのように行動するのか?
どのように解決していくのか?です。
パート1では、半沢直樹の最大の敵、大和田常務を土下座させて見事に討ち果たしました。
クライマックスでは役員取締役会で、大和田常務をボコボコに論破した上に、土下座までさせましたよね?
役員の前で、上司が部下に頭を下げて土下座させるという強烈なインパクトを残しました。
父が、どしゃぶりの中で大和田に土下座して頼んでいる回想シーンが印象的でした。
言葉では言い表せない主人公の激しい怒りと悲しみが深く滲み出ていました。原作者の池井戸潤さんはこのシーンを一番描きたかったにちがいないのです。
このシーンを描くために、序盤・中盤と物語を書いてきたと思います。
作品を描く前に、このクライマックスが明確なイメージが作品を最後まで描き切るためのバリューとなったはずです。
しかし、結果と結末は違いました。どういう訳か、どんでん返しで東京中央銀行のトップ中野渡頭取が、ラスボス大和田をかばい、半沢を東京セントラル証券へ出向を命じられて完結します。
このカタストロフィものの意外な展開は、作家さんのセンスだと言えます。
自分の持論・正論をぶちまけて、主人公が次期頭取候補となり、めでたしハッピーエンドでもよかったんですが、あえてそれを否定しました。
でも、半沢がまさかの出向というバットエンドで終わらせたのが、作者の強いメッセージ性が盛り込まれていると思います。
“世の中こんなにもドロドロしているよ”、“理想通りにはいかないよ”、“さぁ。もしあなたならどうする?”、“やるかやられるか?”、“やられたらやりかえせ!”
読者に心に突き刺すような余韻を残しています。これがラスト落とし所のメッセージです。
以上が③どのようにです。
半沢直樹2①~④の概要
では、話を元に戻して、半沢直樹2の解説をしていく前に、このブログで取り上げている要点とポイントを照らし合わしていきますので御覧ください。
★メインキャラクター
・主人公:半沢直樹
・中ボス1:伊佐山
・中ボス2:大和田
・ラスボス:三笠(副頭取)
★舞台設定:証券会社VS銀行
★リミット:役員会議までの3日間
・危機と脅威:半沢直樹の出向・電脳によるスパイラルの買収・セントラル証券の営業停止
・フック:半沢が瀬名社長のスパイラルを救えるか?
★クライマックス
・どんでん返し1:半沢が大和田と手を組に、役員会で発言権を与える
・どんでん返し2:三笠副頭取が電脳雑技集団に不正に契約されていたことがあからさまになる。
・結果:半沢が伊佐山・三笠による不正融資計画を暴き、東京中央銀行による500億円の融資損失を防ぐ。
★結末:スパイラルとセントラル証券を救い、半沢は東京中央銀行にめでたく出向(帰還)が決まる。
『半沢直樹2』の1部では、特に半沢直樹が、父の仇である大和田と手を組んだ作戦が面白いと言えます。
「おまえこそ!負け犬だ!」
「私を利用してみませんか?」
半沢直樹が大和田を説得するこの場面が見ものです。
窮地に追いやられて、ハラハラドキドキを大詰めで煽り、次の一手のカードを打ち出す時の引き(トリガー)や、主人公の演出力が抜群です。
ストーリー構造、大きな流れは、伊佐山という中ボスが、大和田と三笠副頭取をいったりきたりしていたこと(事大主義的)がポイントでした。
伊佐山は、大和田でも三笠でもどちらでもよく、最終的に自分さえ出世できればいいわけです。
そんな輩が銀行組織にあぐらをかいて蔓延っているアンチテーゼを物語っています。
第4話目(1部最終話)では、半沢の部下、森山に3つの信条(モットー)を教え、未来を託していく姿や正論や作者なりのメタファーもこめられています。
物語上の至る所に伏線を臭わせていますが、視聴者(読者)に対しても「どうなっちゃうの?」感を醸し出し、トラップシチュエーションやターニングポイントを匠に挿入しながら、次の展開に目を離せないようにしています。
第二部の展開も見逃せませんね!
これまで、面白い物語りづくりのための参考のシリーズとして、他にもございますので、興味があればご覧ください。
あなたの創作を応援します。
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